(主に企業の)研究開発に関する一考察(1) ~基本的な問題認識の振返りと整理~

近頃、研究開発戦略について議論をする機会が増えてきた。量子コンピュータなどエマージング技術が登場していること、デジタルやデータの時代になり研究開発のテーマややり方に変化が求められていること、日本企業の短期思考(志向?)化に伴い長期目線での技術や市場の不確実性への挑戦(とそこからの新しい事業の創出)が出来ていないことからの不安感、など様々な理由が背景にあるのだと思う。政府の半導体・デジタル戦略や量子技術イノベーション戦略など政策面での動きも活発で明るい話であると感じる。この領域は既に様々な議論がされているので、無力な小生が何か付け加えることは無いが、あくまで自分の頭の整理のためにメモを起こしてみようと思う。

 

基本的な問題意識としては、日本は何故(他国と比べて)研究開発投資のパフォーマンスが高くないのかということであろう。日本は先進国で最も研究開発費を投入している科学技術立国であることは有名である。しかし、一方で研究者一人当たりで見ると景色が異なる(ことも有名である)。

 

研究開発を担っている主体を国別で見ると日本は米国に近い産官学連携モデルであるが、中国、韓国は全く異なるモデルであることが分かる。ただし、米国は軍事研究によりGPTが創出される基盤が存在するため、日本とは根本的に異なる点は重要であり『企業家としての国家』(Amazon - 企業家としての国家 -イノベーション力で官は民に劣るという神話- | マリアナ・マッツカート, 大村昭人 |本 | 通販)などでも多数指摘されているとおりである。中国は基礎研究、応用研究までは国家の果たす役割が大きいところは流石国家資本主義といったところか。一方、韓国は基礎・応用・開発研究の全てにおいて企業の比率が高く、要はサムスンやLGなどの財閥企業が全部やっているということであろう。

 

次に研究開発領域の推移を見ると、これまた有名な話ではあるが傾斜配分をした米国、中国としなかった日本という構図が浮かび上がってくる(主要国の技術分野別パテントファミリー数割合の推移からの類推)。中国は国家資本主義なので振り方が半端ないが米国も情報通信技術が増えている(あくまでパテントの出願動向であり、米国にはシリコンバレーがあるからあくまで事後的な結果ではないかという見方もできるが)。

因みに、日本は低学歴国であることが昨今指摘されているが、これはデータから明らかにそうである。

 

このような問題意識の下、やはり次のような疑問が湧いてくる。①日本の競争力はなぜここまで落ちたのか?、②日本の製造業はかつて本当に強かったのか?、③そもそも何が原因か?、そして今の個人的な最大の関心は、企業にとって研究開発とは何か?、もっと言うと何と捉えられていて、本来は何であるべきか?、である。

そこで一般的に言われている指摘を整理すると下記のとおりになると考えられる。ここではMOTでもおなじみの魔の川、死の谷ダーウィンの海で整理してみた(そもそもそれ自体がリニアモデル前提でダメなんじゃないかとのご指摘はご尤もであるが一旦此方で整理してみた次第である)。

 

まず、魔の川に関しては研究開発(R&D)、特に研究(R)の位置づけの難しさが(特に企業の研究開発においては)挙げられよう。嘗てのようにリニアモデルが成り立つ領域が限られてきていることやプロダクトアウトの弊害への指摘などがあるなか、投資家からの圧力等もあり、新しい市場を創出するための不確実性への挑戦としての研究は難しくなり、先々行開発やリスク低減のための取り組みとならざるを得ない局面が増えてきているというのが実態であろう。嘗て日本企業は技術はあるが死の谷を超えられずビジネスで負けるというのが定説であったが、状況は大きく変わったように感じる。次に死の谷であるが、此方はEVA経営の弊害という言葉は言い過ぎかもしれないが投下資本の多寡が増大していること、グローバル競争で日本は規模の経済やスケーラビリティ、時間の経済で劣後すること、昨今のデジタルは多面市場でありWinner Takes Allが更に強く働くのでそもそも勝ち筋が見えづらくなっていること、など問題をあげたらキリがないであろう。最後にダーウィンの海であるが、これも様々ところで指摘されていることであるが、大企業によるスタートアップ買収など(略奪的成長:Predatory Growthの指摘など今後の競争法の行方次第ではあるが)技術を事業化するためのエコシステムが充実している海外と比較し、日本はIPOがスタートアップのEXITの中心であるなど問題は多い。

 

といったところで、少し長くなってきたため一旦この辺までとし、リニアモデルとポストリニアモデルの問題点などについて、また自分の頭の整理のためのメモを時間を置いて整理しようと思う。